2014-02-25

草魚バスターズ 真板 昭夫


草魚バスターズ
真板 昭夫 (著)




草魚を放流したことによって、古刹京都大覚寺にある大沢池の崩れてしまった生態系を再生した大学の先生の話

環境破壊とは、人間の一方的な都合で自然を壊すことだ。森林を切り開いて道路を作る、河川をせき止めてダムや河口堰を作る、、といったことがある。一方で、自然保護とは、壊れた自然を再生する、あるいは、手つかずの自然を残すといったことを意味する。屋久島・知床半島のように人が自然にかかわることを制限・阻止したり、足尾銅山の煙害で失われた森を再生する、、といった例が思い浮かぶ

環境破壊と自然保護は真逆の考え方だ。がしかし、一方で、ある面では共通することもある。それは、自然と人間は対立するとみなす点だ。人間が自然を利用すると環境を破壊するなら、人間は自然を利用できない。その逆もしかり。人間が自然を守りたいなら、人間は自然を利用できない、、、。つまり、環境破壊と自然保護は、人間 vs. 自然という点では全く同じなのだ

たしかに、工業化が進んだ現代では、人間の活動が自然に与えるインパクトは極めて大きい。がしかし、古来より、人間は自然を利用してきたのも事実だ。では、陳腐な言い方だが、人間と自然が共生できる条件とは、どんなときか?

里山・里海という言葉がある。かつて、日本人は(日本人にかぎらないのだろうが)、自然をうまく利用して生活した。例えば、有限な資源を守るために、入会地をつくる、民話を伝承することで、共有地のジレンマをうまく解決してきた。ため池の底泥や湖沼の水草を畑の肥料に使うことで、水の中の栄養塩を陸に上げ、湖沼の水質を(結果的に)維持した。つまり、人間の生活が生態系の維持に組み込まれていて、あるいは、生態系の一部に人間の生活を組み込むことで、継続的に自然を利用することができた。ここでは、人間 vs. 自然という対立軸はない。

草魚バスターズは当初、大沢池の景観を取り戻すためにに必要なことjは、草魚の生息数を減らすことだけと考えていた。がしかし、活動が進むにつれ、どのような景観を大沢池に取り戻すべきか?住民や観光客は大沢池はどのようにかかわるべきか、といった当初は考えられなかったような問題に直面した。もじゃもじゃ先生は、生物学の知見に固執せず、生け花の歴史や地域社会とのかかわりを通じて、柔軟に問題を解決していく・・・・

軽めの内容で、さらりと読める
加えて、人間や社会と自然のかかわり方を考え直すきっかけになる

とてもよい本、おもしろかった


2014-02-22

ウォール街の物理学者 ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール


ウォール街の物理学者
ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール


ウォール街の物理学者


mathematical physics and applied mathematics meet financeといった内容の本

株価や債券の時系列変動から、かのアインシュタインよりも先にブラウン運動の考察を行ったバシュリエ。数学者をあきらめ、実務家に転じたのち、確率微分方程式を使ってコールオプションの合理的な価格づけを実現したブラックショールズ式を発見?し、ノーベル賞をもらいそこねたブラック。数学者を目指したものの、異端の烙印を押され、フラクタルという独自の世界を切り開いた結果、ファイナンスを正規分布の頸木から解き放ったマンデルブロ。遺伝的プログラミングやカオスといった最新のコンピューターサイエンスを金融の世界に持ち込んだファーマーとパッカードなどなど、異端の数学者や、物理・コンピューターサイエンスの知見をファイナンスに持ち込んだ学者たちの話が書いてある。

個人的に気になったのは次の2つ
1つ目は、モデル設計の思想について
たぶん、適用する分野によらず、数理・統計モデルを使うとき、

  • 自分たちが知っている構造を数学や統計を使って再現
  • 与えられたデータを最もうまく再現するモデルを構築
という2つのいずれかを重視するかと思う。前者は、おそらくモデル構築を通して、分析対象の理解を深めたいときに重視すると思うし、後者は、分析対象のダイナミクス理解よりも、予測結果の妥当性を重視したいときに使うのだと理解している。

この本にも、ブラックが構築したモデルまでは前者だったけど、それ以降は後者になりつつあるといったことが書いてあり、金融の世界は、まあそうなのかなあと漠然と思った次第

もう一つは、正規分布とコーシー分布の話

コーシー分布、というか、レヴィ安定分は、ごくたまに、すごくマニアックな統計本に出てくるのを目にしていたけど、正規分布と形とよく似ているし、なんでこんなものが改めて出てくるかさっぱりわからなかった。だけど、今回、この本を読んで、初めて、なんとなく理解できた

で、それが何かといえば、たぶん、正規分布は平均値と標準偏差をパラメーターに持つけど、形がよく似ているレヴィ安定分布は、平均値がパラメーターではないという点、ではないか

何が重要かといえば、たとえば金融で言えば、たとえば株価収益率が対数正規分布に従うのであれあれば、平均値と標準偏差でリスクをコントロールできる。だけど、株価収益率が、レヴィ安定分布に従うのであれば、収益率の平均値や標準偏差を使ってもリスクをコントロールできない、なぜならば、正規分布よりも大きく裾を引くからといったかんじなのかと思う。そして、その場合、リスクをコントロールするには、とても難しい数学が必要なのだろう。

翻訳も適切で、かつ、難しい話よりも登場人物の生い立ちに焦点が絞ってあったので、すごく読みやすく楽しんで読めた。ちょっときになったのは、経済学者との交流、というか、経済学者の評価が低かったこと。

異端の数学者たちが金融で活躍できたのは、経済学が数学を重視するからに他ならない。祖いう言う意味で、経済学が数学をベースに理論を推し進めてきたことが登場人物たちの活躍の背景にあるのに、経済学が使う数学のレベルが低いとか、イノベーションを受け入れにくいと一方的に批判するのは、理系が文系よりも優れている的なもののひとつな感じがして、とてもいただけなかったのが残念だった。といったも、ちょっとまえのシグナル&ノイズにくらべれば、断然面白内容だったので大満足

2014-02-11

やしきたかじん

ちょっと前に、やしきたかじんが亡くなった

たかじんに特別な思い入れはない。自分自身、生まれてからずっと東京に住んでいるから、関西ローカルの彼のテレビ番組をみることなどほとんどない。加えて、たかじんも東京で製作するテレビ番組に出演することを、かたくなに拒んでいた。

がしかし、たかじんが東京の深夜番組に出演した時期があった。いまから20年くらい前、おそらく1995~1997年ごろのことだ。

当時、ダウンタウンが大ブレイクしていた。大阪の笑い、その中でも本当に下品な笑い---あからさまに人の悪口を言う、弱いものに露骨に暴力をふるう、聞くに堪えないような本当に下品な下ネタをいう---は、良くも悪くも新鮮だったし、刺激的だった。10代後半だった自分は、ダウンタウンの笑いに夢中になった。たかじんの深夜番組が東京で放映したのは、ちょうどそのころだったはずだ。

たかじんの番組も,、ダウンタウンと同じような鋭さがあった。たかじんの番組は、単なるトーク番組だ。彼は、テレビで何の芸も披露しない。ただただ、酒を飲みながら、ゲストとフリートークするだけだ。がしかし、単なるフリートークではなかった。たかじんは、番組中に、自分が気に食わないこと、理不尽だと感じたことがあると、撮影中であっても、怒りをあらわにした。番組中に目下のタレントをののしる、スタッフに暴力をふるう、最悪、撮影を拒否し、家に帰る。

初めてたかじんの怒りを見たとき、本気かどうか疑った。それまで、公共の電波を使って激怒するタレントなど見たことがなかった。が、たかんじの怒りは本物のようだった。まだ若かった自分は、そんなたかじんの番組に夢中になった。番組は、1~2年くらい続いた後、打ち切りとなった。理由はわからない。その後、たかじんが東京のテレビ番組でみることはほとんどなくなった。

当時、たかじんが、本当につまらない理由で激怒する理由がわからなかった。しかし、今になって思う。彼は、怒りを爆発させることでしか、視聴者を引きつけることができなかったのではないか、と。だから、つまらない理由でも、いや、つまらない理由だからこそ激怒する必要があった。彼の激怒を芸として認めているのは関西の視聴者であり、関西のテレビ局だけだったのだろう。同じ理由で、東京でほぼ無名のたかじんを自由に泳がせるテレビ局はなかったし、彼自身が東京進出を拒んでいたのは、そんな理由なのだろう。

この先、あの手のタレントが有名になることはないと思うし、やしきたかじんやダウンタウンのような笑いを使うタレントを有名にしてはいけないと思う。

しかし、最近、一部の吉本のお笑い芸人が、なんか頭が切れる風な言動をするのを見るにつけ、どんだけ立派なんだよと思ってしまうことが多い、ホント、お笑い芸人もえらくなったもんだ、しかし、賢い風な態度をとって、彼らの商売に差し障らないのだろうか?

2014-02-08

シグナル&ノイズ ネイト・シルバー

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」
ネイト・シルバー

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」


ここ数年続いているビッグデータ祭りは、収束するどころかどんどん大きくなっている。で、そんな中で、同業者、というにはあまりにも偉大な著者が、予測、もっとおおざっぱにいえばデータ分析をする時の心構えをまとめた本

ネイトは、スポーツからギャンブルといったやわらかい話題から、サブプライム問題、天気予報、地球温暖化といった硬い話題まで、予測するためのノウハウをまとめてた。こんなにもたくさんの話題を扱い、そして統計学からシスムダイナミクスによる予測まで論じられるのは、本当に素晴らしいと思う

だけど、正直な話、野球の話は読んでいておもしろかったけど、それ以外は退屈だった

予測が難しい分野、たとえば地球温暖化や世界経済などを取り上げて、この分野の予測は当たっていないと批判するのだけど、当たっていない理由がpoorなのだ。例えば、信頼区間を考慮していないとか、予測結果を謙虚に検証していないからだとか、そんな話の連続で辟易した。簡単に言ってしまえば、頑張って書いた大学生の卒論みたいな内容なのですよ。あと、ベイズを賞賛しているしている理由もよくわからなかった。頻度主義というか今主流の統計学で足らない部分があるのは事実なんだろし、今後ベイズを使う場面は増えるのだろうけど、ベイズが全てを取って代わるとも思えない。実験計画法と分散分析・社会調査・計量経済学などオーソドックスな統計学は、Fisherを祖とする分野そのもののだし、これらの分野がベイズによって劇的にかわる気もしない。

いずれにしても、買うほどではなかったとかなり後悔