2008-12-14

オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情

オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情 (単行本)
R.H.フランク (著), 大坪 庸介
サイエンス社 (1995/01)

経済学的な合理的選択論の可能性を、さらに広げた本。

経験と現場(とカン)を重視する社会学(者)が、経済学(者)を馬鹿にするときに使う決まり文句がある。

「人間は、経済学が想定するみたいに、合理的な行動をしない」

たしかに、人間の行動は合理的でないかもしれない。経済学の中でも、この手の批判は昔からある。しかし、だからといって、合理的選択論の代わりに なる理論もない。そして、重要なことは、人間の行動が非合理的だからといって、合理的選択論が使えないわけでもない、ということだろう。その意味で、人間 の非合理性に対して、合理的選択論から、ひとつの見解を与えたのがこの本だ。

具体例でしめそう。

感情は、人間の行動の中でも、非合理的な部類に入ると考えられている。ことわざの「短気は損気」は、よい例だ。では、感情は本当に非合理的なのか?

実は、合理的という概念は、条件つき合理性なのだ。その意味で、合理的という概念は、最適化と近い。よって、最適化する条件が異なれば、合理的の意味は自然と変わってくるのは、当然の話だ。

著者は、合理性の条件を変えることによって、感情に対して、合理的な機能を与えてみせる。その論理展開は、鮮やかだ。

また、著者は、経済学者なのにもかかわらず、行動分析派の心理学者による実験例も引用し、自身の主張を展開する。すぐれた研究者である著者だからこそ、分野を超えて理論を展開することができるに違いない。

心理学と、ミクロ経済学は、いずれひとつの学問分野になるかもしれない。そんな予感を感じさせる一冊

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