調べるとは、何を調べているのか?ということについて、思いをめぐらすことがある
個人的なことを書くと、今の世の中、何かと不都合なことが多い。まあ、それでもちょっと書いてみると、今の仕事とは、お客さんの競争環境を調べて、お客さんの意思決定をサポートすることだ。まあ、そう書くと見栄えいいけど、現実的には、お客さんが、何がしかの決断をしたいとき、各種データをまとめて、まとめた結果を報告することがオレの仕事。具体的に書け、マーケティングリサーチ業に従事しているってこと。
で、最近、格安リサーチ会社が台頭してきたことと、過去からリサーチャーに対する不満が燻っていたようで、ここ数年、老舗のリサーチ会社に対するお客さんからの風当たりがすごく強い。いわく
----- 値段が高い
----- 知ってることしかいわない
----- ビジネスセンスがない・ビジネスに直結するような提言をしない
などなど
老舗調査会社に勤めている身としては、まあ、仰せのとおりですと、素直に思うわけです。一方で、値段が高いのは仕方ないけど、知ってることしか言わないとか、ビジネスに直結する提言をしないってのは、的外れな批判って気もする。ということで、それぞれの批判について、個人的な経験と思うことを書いてみる
(1)知ってることしかいわない
たしかに、お客さんが知ってそうなことだけを言う時がある。で、そうする理由は、実は二つある。一つ目は、調査結果の読み込みが甘いときだ。データをまとめても、仮説が雑すぎて、言い換えれば対象への知識や経験が、お客さんよりはるかに乏しいので、当たり前というか、見たままの結論しかまとめられないことがある。これは良くないと思うし、自分でレポートを書いててもすごくつまらないので、批判は甘んじて受けます
で、もうひとつは、当たり前の事実を積み上げると、逆説的な結論や複雑なダイナミクスなど、直観的に理解しきれない結論が出るときです。普通のお客さんを相手にすると、マーケティング・ミクロ経済学・ゲーム理論あたりの知識など期待できないので、社会科学の理屈を用いてデータを解釈しても、がんばって分かりやすい説明を試みたところで、到底、理解しきれないのです。まあ、これは社内でもそうなのだが。現実には、言ってみたところで、心には残らないので、当たり前のことだけ言ったってことになる。このパターンは承服しがたいけど、最近は、あきらめの境地。とくに社内は。
で、つぎ。
(2)ビジネスセンスがない・ビジネスに直結するような提言をしない
これも、(1)の1番目と同じ感じで、対象への理解が乏しくて、できればいいけど、できっこないような提言をしてしまうことがある。例えば、東京-新大阪間を5000円で、新幹線以上にも早く移動できるサービスがあればビジネスが成功するのは分かりきってる。けど、そんなこと、簡単にできっこないわけです。だけど、そのような事を、空気を読めず言ってしまい、冷や水を浴びることがある。
で、もうひとつ。
そもそも、調査・分析とは、ビジネスそのものを調べるわけじゃないってこと。分析するとは、Aという戦略をとったときに、成功しうるかどうか?あるいは、成功するためにはどんな要件が必要そうか?を調べるだけ。つまり、調査結果が、ある打ち手を成功しやすそうだと提言したところで、本当に成功するかは全く別問題なのです。あと、自社が置かれているポジションを分析すること(まあ、STPとか3Cといわれるもの)もあるけど、分析したからといって、本当にそのポジションにいるかも、また別問題。
実は、分析するとは、何がしかのフレームにそって分析するだけなのです。心理学なら心理学の理論にもとづいて分析するし、経済学なら、マクロなりミクロ経済学のフレームにそって分析するはず。で、たぶん、マーケティングも同じ。マーケティングはマーケティング理論や経営戦略の理屈に基づいて分析するだけです。心理学者が人間そのものをしらべているとは言わないだろうし、経済学者も、経済そのものを調べているとは言わないはず。その意味で、マーケティングも同じで、お客さんのビジネスそのものを調べているのではなくて、お客さんのビジネスをマーケティング理論なり経営戦略の理論の上で分析するだけなのですよ。
というとお客さんは困ってしまうかもしれない。
でも、その辺を理解しないと、分析結果に何の価値も見出せないかもしれない。そもそもお客さんがすべきことを提言して、提言が利益を生むのであれば、分析者が商売した方がよいはずなのです。
などとつれづれ思うわけなのですが、現実的には、市場調査の関係者の多くは、口で言うほどにはマーケティングもリサーチも統計もほとんど理解しておらず、それがゆえに、お客さんに過剰な期待と過剰な失望を抱かせているのではないか?などと漠然と思うわけなのでした。
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