生物と無生物のあいだ (2007) 講談社新書
福岡伸一
何年か前に話題になった本
時間にゆとりができたので読んでみる
この本で福岡さんは、サントリー学芸賞をもらい、一躍、知識人の仲間入りをした感がある。親しみやすい題名に反して、テーマそのものは、そこはかとない奥深さを含む。題名の妙が、ヒットにつながった要因かもしれない。
前半は気軽に読める
DNSの正体に迫ったエイブリー、DNAの構造を明らかにしノーベル賞を受賞したワトソンとクリック、そしてDNA構造にエックス線回折を使って迫ったフランクリンなど、何が生物の根幹を担う物質であるかに迫った、言い換えればDNA探索の初期の研究史を、自分の留学時代の苦悩と思い出とともにつづっている。
後半は、DNAとは、どのような機能を果たしているか?ということを、ロックフェラーとハーバードで彼が取り組んだ研究に基づいて紹介する。細かい記述が続き、素人にとっては正直読みづらい。
福岡さんの研究は、最初、細胞レベルで成功し、特定の遺伝子が働かないノックアウトマウスに移行した。ところが、あと一歩のところで実験は失敗する。特定の遺伝子が働かないマウスは、なんらかの機能不全が起きるはずだった。しかし、マウスは、福岡さんが特定遺伝子ををノックアウトしても、相変わらず正常=健康に生涯を全うしてしまった。
無生物=機械ならば、そうはいかないはずだ。機械は、1つでも部品が壊れると、正常に動かなくなる。では、なぜ、特定の機能が働かない遺伝子を持つマウスは、正常に生きられたのか?
じつは、遺伝子とは、それが多少異常でも、異常を補完するシステムが、遺伝子そのものに無駄や重複のという形で備わっている、というのが彼の実験結果の含意だった。そして、それこそが、生物と無生物=機械の境となる。だからこそ、生物は、何万年、何億年もの間、地球環境の変化に耐えながら、生命は自身の命を紡ぐことができたし、この柔軟さ、言い換えると動的な均衡こそが、生命の本質に他ならない。
1回読んだだけでは、なにが大事かわからなかった。しかし、養老さんの解説を読んで合点がいった。オチに一直線に向かっていくのは素晴らしいの一言。だけど、マニアックな内容に深い入りして、読ませたい内容が伝わりづらいのが難点なのかもしれない、偉そうだけどね。
サントリー学芸賞 社会風俗部門 選評
養老 孟司(東京大学名誉教授)
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