ウォール街の物理学者
ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール
mathematical physics and applied mathematics meet financeといった内容の本
株価や債券の時系列変動から、かのアインシュタインよりも先にブラウン運動の考察を行ったバシュリエ。数学者をあきらめ、実務家に転じたのち、確率微分方程式を使ってコールオプションの合理的な価格づけを実現したブラックショールズ式を発見?し、ノーベル賞をもらいそこねたブラック。数学者を目指したものの、異端の烙印を押され、フラクタルという独自の世界を切り開いた結果、ファイナンスを正規分布の頸木から解き放ったマンデルブロ。遺伝的プログラミングやカオスといった最新のコンピューターサイエンスを金融の世界に持ち込んだファーマーとパッカードなどなど、異端の数学者や、物理・コンピューターサイエンスの知見をファイナンスに持ち込んだ学者たちの話が書いてある。
個人的に気になったのは次の2つ
1つ目は、モデル設計の思想について
たぶん、適用する分野によらず、数理・統計モデルを使うとき、
- 自分たちが知っている構造を数学や統計を使って再現
- 与えられたデータを最もうまく再現するモデルを構築
という2つのいずれかを重視するかと思う。前者は、おそらくモデル構築を通して、分析対象の理解を深めたいときに重視すると思うし、後者は、分析対象のダイナミクス理解よりも、予測結果の妥当性を重視したいときに使うのだと理解している。
この本にも、ブラックが構築したモデルまでは前者だったけど、それ以降は後者になりつつあるといったことが書いてあり、金融の世界は、まあそうなのかなあと漠然と思った次第
もう一つは、正規分布とコーシー分布の話
コーシー分布、というか、レヴィ安定分は、ごくたまに、すごくマニアックな統計本に出てくるのを目にしていたけど、正規分布と形とよく似ているし、なんでこんなものが改めて出てくるかさっぱりわからなかった。だけど、今回、この本を読んで、初めて、なんとなく理解できた
で、それが何かといえば、たぶん、正規分布は平均値と標準偏差をパラメーターに持つけど、形がよく似ているレヴィ安定分布は、平均値がパラメーターではないという点、ではないか
何が重要かといえば、たとえば金融で言えば、たとえば株価収益率が対数正規分布に従うのであれあれば、平均値と標準偏差でリスクをコントロールできる。だけど、株価収益率が、レヴィ安定分布に従うのであれば、収益率の平均値や標準偏差を使ってもリスクをコントロールできない、なぜならば、正規分布よりも大きく裾を引くからといったかんじなのかと思う。そして、その場合、リスクをコントロールするには、とても難しい数学が必要なのだろう。
翻訳も適切で、かつ、難しい話よりも登場人物の生い立ちに焦点が絞ってあったので、すごく読みやすく楽しんで読めた。ちょっときになったのは、経済学者との交流、というか、経済学者の評価が低かったこと。
異端の数学者たちが金融で活躍できたのは、経済学が数学を重視するからに他ならない。祖いう言う意味で、経済学が数学をベースに理論を推し進めてきたことが登場人物たちの活躍の背景にあるのに、経済学が使う数学のレベルが低いとか、イノベーションを受け入れにくいと一方的に批判するのは、理系が文系よりも優れている的なもののひとつな感じがして、とてもいただけなかったのが残念だった。といったも、ちょっとまえのシグナル&ノイズにくらべれば、断然面白内容だったので大満足
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