2017-07-16

「原因と結果」の経済学

「原因と結果」の経済学

中室牧子・津川友介
ダイヤモンド社 (2017/2)


相関関係と因果関係が違うことを、改めて説明した本

心理学を学ぶ人ならば、イの一番に、統計学と実験計画のお作法を習う。そして、その時に、実験計画を研究に組み入れる理由を学ぶのだが、まさにそれが、相関と因果の違いを区別するためだ。心理学や、一部の計量モデルをつかう社会学・経済学の人たちにとって、この本が書いていることは、特段目新しくも何でもないと思う。がしかし、誰かにとって当たり前でも、その他の人にとっては当たり前ではなく、そこを新しい商売のネタを見つけるというのは、世の中を生き抜くうえで重要なテクニックなんだろうと思ったりする

アメリカの経済学者が、びっくりするような予算を獲得して、研究に社会実験(ランダム化比較試験)を行っていることに、アメリカ人の大胆さに感心したり、あきれたりしてしまう。他人との調和とか、あらゆる人の平等のプライオリティーが高い日本では、未来永劫、こんなことはできない気がしてならない。

ビジネス分野でランダム化比較試験にあたるのはA/Bテストだ。たとえばお客さんを2つのグループに分けて、片方だけ販促を行い、両者の売り上げを比較し、投資効果の検証を行う。アイデアとしては、バカげているほど単純だけど、何も知らない上司や、稟議を審査する経営茶坊主たちを説得するには便利なツールなのだ。科学的な装いを担保しつつ、簡単でバカでも理解できるツールを使えば、何も知らない上にプライドが高いやつらを簡単に説得できる。

回帰不連続デザインや操作変数法も、カンと地頭がよいビジネスマンならば、普通に上手に使って誰かを説得しているのではないだろうか。ただし、この手のものは、バカとハサミは使いようというのと同じで、マニアックで凝った比較デザインのデータを見せられても、つまらないことにこだわっているようにしか見えない時がママある。比較の正しさにこだわった結果、なんか一般性が低くねえか?的なことだ。この辺のサジ加減は結構難しい。

お前が作った分析には考慮していない要因がある、というのもありがちな突っ込みだ。第三の変数があるだろうと。実は、自分の場合、その変数を無視した理由を上げつつ、無視して何が悪いと逆に居直ることが多いのだが、そうも言ってられないこともたまにはある。そういう時は、回帰分析をするしかない。回帰分析も便利なツールなのだが、いかんせん、何も知らない上司や経営茶坊主たちに分かりやする説明するのが面倒。自分の感覚では、SQLで数字をつくり、Rをこねくりまわし、モデルが当てはまりましたという段階は、まだ6合目あたりでしかない。モデルが当てはまるようにいじくりまわした変数たちを、上司や経営茶坊主たちが、素直に納得し、それでいて発見があり、かつ適当にほめられつつ、けなされつつ、なおかつ、見て楽しい図にまとめる必要がある。塔がったった中年オヤジたちを相手にするとは、まったく面倒な話なのだ。

ごちゃごちゃ書いたけど、相関と因果の違いを知りたい人は、まずこの本でお勉強するのがよろしいかと思われます。