2013-08-04

マネーボール


マネーボール(完全版)
マイケル ルイス
ハヤカワ・ノンフィクション文庫
マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


あれは新卒で勤めた会社を辞めて、ブラブラしていた2000年ごろ、偶然本屋で野球に関するでデータ分析の本を見つけた(メジャーリーグの数理科学 上 (シュプリンガー数学リーディングス))。そのときすでにデータ分析を勉強していたこともあり、あーこんな本もあるのか、と漠然と思ったことを憶えている。で、時は過ぎ去り2011年、セイバーメトリックスを題材にしたマネーボールが上映された。そのときも、これは見なければと思ったのだが、忙しさにかまけ、見過してしまった。で、さらに時は過ぎ去り、たまたま行った本屋で文庫本になったマネーボールを発見・読了の運びとなったのでした

この本のストーリー性は抜群。伝統を重視する球界と、伝統にチャレンジする、貧乏球団アスレチックスGMの主人公ビリー。データ分析でビリーをサポートするポール。そして、ビリーとポールに見出された、無名のマイナーリーガーや、ドレフトで誰も注目しなかった大学生野球選手、メジャーリーグーを解雇された選手が、アスレチックスで活躍する様子には本当に魅力的。データ分析を知らなくても、いわゆる水戸黄門風の勧善懲悪風ストーリーだから、誰もが十分に楽しめる内容なのだ。

データ分析という点では、ビジネス・意思決定の現場において、分析者たちがどんな困難に直面するか?が、とても興味深い

(ビリーとスカウトたちが、来年ドラフト指名する大学生を検討する会議で)

GMのビリー
「アラバマ大学のジェレミー・ブラウンを検討したい」

スカウト
「(あのブラウンか???)ブラウンは太りすぎだ。

アナリストのポール
「大学リーグで史上初めて安打300本と四球200個を記録しています」

スカウト
「大学では記録的な活躍だが、デブにはかわりない」

GMのビリー
「じゃあベーブルース似だな」


いつも思うのだが、データ分析だけで、すべての疑問を検証できることはめったにない。現実的には、時間やデータがたりないことが多い。そんな場面で、データ分析を信用しない人たちの揚げ足取りを、どんな風にやりこむかは、分析者にとって現実的に極めて重要なスキルだ。ポールにとって、データを信奉し球界に精通したビリーの存在なしで彼のデータ分析スキルが意思決定をサポートすることはなかったと思う。

マネーボールはアメリカでベストセラーになり、映画ではアカデミー賞受賞者が出たようだ。筆者のマイケル・ルイスは隠れた優良株を見つけ出す、ノンフィクション界のビリーなのかもしれない。